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IT 系初の士業として誕生した国家資格「情報処理安全確保支援士 (登録セキスペ)」ですが、講習の受講が必要で、その講習費用が高額ということもあり、登録するメリットがあるのかどうか気になっている方も多いのではないでしょうか。
私は平成 31 年度春期の情報処理安全確保支援士試験 (以下、支援士試験と書きます) に合格しましたが、登録セキスペの制度について調べてみた結果、資格維持にかかる費用に対して得られるメリットが少なすぎると判断して登録を見送りました。
この記事では、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の資格を維持するために必要な費用の情報のほか、登録することによるメリットや制度の疑問点などを紹介します。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の資格維持に必要な費用
以下、費用と講習の受講頻度については 2023 年 10 月時点の内容です。
まずは支援士登録の申請を行う際に費用が必要です。
続いて、受講義務のある講習にかかる費用がこちらです。
資格を維持するためには以下に示す周期で講習を受講する必要があります。
時系列にするとこんな感じです。
- 1年目登録費用 20,000 円
オンライン講習 20,000 円 - 2年目オンライン講習 20,000 円
- 3年目オンライン講習 20,000 円
実践講習等 80,000 円※ 実践講習等を3年目に受講した場合です。実践講習等は3年に1度しか実施されないため、登録するタイミングによっては1年目か2年目に集合講習を受講しなければならない場合もあります。
- 4年目以降3年間で合計 140,000 円 を繰り返す
オンライン講習 20,000 円×3年間+実践講習等 80,000 円 = 140,000 円
情報処理安全確保支援士の資格維持に必要な費用と講習の受講義務についてはお分かりいただけたでしょうか。
これだけの費用がかかることを踏まえた上でメリットや疑問点を見ていきましょう。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)に登録するメリット
登録セキスペのロゴマークを使用できる
情報処理安全確保支援士 (登録セキスペ) の登録者は、情報処理推進機構(IPA)が制定するロゴマークを使用することができます。
名刺やビジネス文書、著作物、ウェブサイトなどにロゴマークを掲示することで、一定のセキュリティ知識を持つことを公的に証明することができるため、信頼を得る手助けになるでしょう。
ロゴには登録番号 (第 XXXXXXX 号) を表示するルールになっており、支援士検索のページ (情報処理安全確保支援士検索サービス) で登録番号を検索すれば登録者の所属や経歴などを閲覧することが可能です。
個人的には、支援士登録を受ける最大のメリットはここにあると考えています。
他の資格試験の科目免除を受けられる
情報処理安全確保支援士 (登録セキスペ) の登録者は、次に挙げる資格試験を受験する際に科目免除を申請することが可能です。
- 弁理士 (理工Ⅴ(情報))
- 中小企業診断士 (経営情報システム)
- IT コーディネータ
- 情報セキュリティ監査人補
デメリットと疑問点
個人には資格維持費用が高すぎる
初回登録費2万円、維持費3年間で 14 万円は高すぎです。とても個人が払える金額ではありません。
そもそも情報処理安全確保支援士 (登録セキスペ) の制度が個人の登録を想定しておらず、企業に属する人に向けた制度なのでこのような金額になっているのだと考えています。
企業が国に向けてアピールをするための資格
支援士登録制度は、企業が国に向けて「うちには何百人の情報処理安全確保支援士が居て、開発や監査、運用保守管理に携わっていますよ!情報セキュリティは万全です。」とアピールするための制度だと個人的には考えています。
IPA の「 国家資格「情報処理安全確保支援士」制度について 」のページに下記の記述があります。
「入札要件の充足」について
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室と総務省行政管理局の定める「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン実務手引書(第3編第6章 調達)」のP44、P91、P92に、登録セキスペが例示されています。登録セキスペの配備が入札要件となる案件が、今後増えていくことが予測されます。
https://www.ipa.go.jp/siensi/index.html
これを受けてか「情報処理安全確保支援士 検索サービス」のデータベースには、日本を代表する SIer や大手企業の社名がずらりと並んでいます。
このように、支援士登録制度は「企業が国にアピールする」「企業がよその企業と人数を競い合う」ための制度とも取れるので、個人がわざわざそこに参入していくメリットは非常に小さいでしょう。
「そうは言っても、講習を受けられるのだから無駄ではないんじゃないの?」という声もあるでしょうが、その講習の意義こそが支援士制度の最大の疑問点です。
登録セキスペの講習で最新の知識・技能を維持できるのか?
上述した通り、支援士登録者には継続的な講習の受講義務があります。
- 1年に1回のオンライン講習(費用:1回2万円)
- 3年に1回の実践講習等(費用:1回8万円)
IPA は、この継続的な講習受講により、最新の知識・技能を維持できるとしています。
しかし、1年にたった1回6時間程度のオンライン講習と3年に1回の実践講習等を受けた程度で、変化の激しい情報セキュリティ業界における最新の知識や技能が維持できるのか非常に疑問です。
講習が大変役に立つものだというのなら話は別ですが、残念ながらそうでもないようです。
IT コンサルタント、執筆、教育などの活動をされている三好 康之氏のブログに次のような記述があります。一部を引用させていただいています。
情報処理安全確保支援士 講師を降りる
本日、正式に…
情報処理安全確保支援士の認定講師の依頼に対してお断りをしました。
例の1日8万円のグループワークの講師です。3年に1回の受講が義務付けられているというやつ。
実は2ヶ月程前に「全然、講師をしてくれる人がいなくて困っている」という相談を受け、何度か断っていたのですが、とても困っておられた様子なので、あちこち打診して…なんとか5人でやる方向で検討していたのですが…最終的に断念しました。
最大の理由は「1日8万円の価値ある研修になるのか?」という点。僕の仕事を受ける時の判断基準です。で、詳しい内容は言えませんが…マネジメント?と思えるようなもので、俺が受講者なら…と考えると、まず無理でした。個人で大枚はたいて来る人のこと考えたら、加担したくなかった。(略)
引用元: 三好康之『情報処理安全確保支援士 講師を降りる』 より
実践講習等を実施する側の内情が書かれていますが、気になるのは引用文の一番最後の「加担したくなかった」という言葉です。
「加担する」という言葉には「悪い行いに協力する・力を貸す」というニュアンスがあることは言うまでもありません。
詳しいことは書かれていませんが、講師を依頼されるような立場の方がブログ記事でこのような表現をするということは、よほど程度の低い講習であることは想像に堅くありません。少なくとも、8 万円を支払う価値が無いことは間違いないでしょう。
私はこの記事を読んで支援士登録はしないと決めました。引用では省略した部分にも非常に興味深いことが書かれていますので、ぜひリンク先の元記事をご一読ください。
ちなみに、 三好 康之 氏は情報処理安全確保支援士試験対策の書籍も書かれており、私が 2019 年度春期試験を受験した際には試験対策に使用させていただき合格することができました。
おわりに
私は支援士登録にはメリットが少ないと判断して登録しませんでした。
個人的には、このような高い費用を払うなら支援士登録制度にではなくシスコなどのベンダーが実施する試験に挑戦したほうが有意義だと考えています。
この記事が情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の登録に悩んでいる方の参考になれば幸いです。